五十肩(肩関節周囲炎)
五十肩(肩関節周囲炎)は、主に中年以降に発症し、肩関節の痛みや動きの制限を引き起こす症状です。肩の筋肉や腱(特に回旋腱板)が炎症を起こし、肩の動きがスムーズに行えなくなるため、腕を上げる動作や後ろに手を回す動作が困難になります。症状は徐々に進行し、初期の痛みが悪化し、最終的に肩の可動域が大幅に制限されることがあります。
腰五十肩の痛みの出る仕組み
構造的原因
五十肩の痛みは、肩関節周囲の組織における炎症と繊維化によるものです。肩関節を構成する軟部組織(特に回旋腱板や肩関節包)が炎症を起こし、神経を刺激し、痛みが発生します。炎症の結果、関節包や軟部組織が硬くなり、繊維化が進行します。この繊維化は組織の柔軟性を失わせ、肩関節の動きを制限します。また、関節包と周囲の組織が癒着し、肩の可動域がさらに狭くなることがあります。
機能的原因
五十肩のもう一つの重要な要因として、身体全体の機能的なバランスや動作パターンが影響します。以下の要因が五十肩の発症に関与しています。
- 腹圧の低下
腹圧は体幹の安定性を維持するために非常に重要な役割を果たしています。腹圧が低下すると、体幹が不安定になり、その影響が肩関節に波及し、肩の動きを支える筋肉(特に回旋腱板)が過度に働く必要が生じます。これが肩関節の負担を増加させ、炎症や痛みの原因となります。
- 胸郭の可動域低下
胸郭(肋骨と胸椎で構成される部分)は、肩甲骨や肩関節の動きに大きな影響を与えます。胸郭の可動域が低下すると、肩関節の動きが制限され、肩甲骨が十分に動かなくなります。胸郭が固くなると肩甲骨が正しく機能せず、肩の動きがスムーズに行えなくなるため、回旋腱板や関節包に余分な負担がかかり、炎症や繊維化が進行しやすくなります。
- 肩甲骨の不安定性
肩甲骨は、肩関節の動きをサポートする重要な骨であり、肩関節の動きが正常であるためには、肩甲骨の安定性が必要です。しかし、肩甲骨の不安定性があると、肩の動きが制限され、回旋腱板や関節包に過度な負担がかかります。これにより、肩の動きに制限が生じ、痛みや炎症の進行を引き起こします。
どんな時に痛むのか?
- 腕を上げる動作(肩の外転)
腕を横から上げる動作、例えば物を棚に置くときや、服を着る際に袖に腕を通すときなど、この動作で肩関節の腱や関節包が引き伸ばされ、痛みが生じることがあります。
- 背中に手を回す動作(肩の内旋)
背中に手を回す動作、特に女性がブラジャーを留めるときや、ズボンの後ろポケットに物を入れるときなど、この動作が肩の関節包を引っ張り、痛みを誘発することがあります。
- 頭の後ろに手を回す動作(肩の外旋)
髪を洗う、髪を結ぶなど、頭の後ろに手を回す動作も、肩関節の動きを制限し、痛みを引き起こすことがあります。
- 重い物を持つ動作
重い物を持ち上げたり、持ち運ぶ動作も、肩の筋肉や腱に負荷をかけ、痛みを引き起こす可能性があります。
症例:50代男性 肩の痛み(夜間痛)と動作の制限
問診
数ヶ月前から右肩に違和感を感じ始め、当初は時間が経てば改善するだろうと考えていました。しかし、違和感は徐々に悪化し、現在では痛みへと変化しています。特に最近では、肩を後ろに回す動作で激しい痛みが走るようになり、夜間にも肩がうずいて眠れない日が続いています。さらに、腕を上げる動作や背中に手を回す動作が困難になり、痛みも伴うため、症状の改善を求めて来院されました。
身体評価
- 姿勢観察
患側である右肩甲骨が挙上位にあり、僧帽筋の筋緊張が視診でも確認できる状態です。立位姿勢では猫背が顕著に見られ、肩の位置が前方に突出しています。
- 可動域の確認
肩の可動域を確認したところ、肩を上げる動作(肩関節の外転)で強い痛みを訴えました。他動では120度まで、自動では90度で可動が制限されています。また、結帯動作(背中に手を回す動作)や結髪動作(頭の後ろに手を回す動作)でも可動域が制限され、痛みを伴っています。
- 筋肉の触診
僧帽筋、広背筋、三角筋、胸部、上腕三頭筋の触診を行ったところ、筋肉の全体的な筋緊張の亢進と圧痛が確認されました。特に、胸鎖関節および肩鎖関節においては、拘縮と圧痛が顕著に認められ、これが肩の可動域制限と痛みの一因となっていることがわかります。
- 腹圧の評価
腹圧が低下しており、体幹の安定性が低下していることが確認されました。この結果、肩関節周囲の筋肉に余分な負担がかかっていると考えられます。腹圧の低下により、体幹が十分にサポートできず、肩の動作時に体幹が不安定なため、肩関節への負荷が増加しています。
- 胸郭の可動域の確認
胸郭の可動域が低下しており、柔軟性が失われている状態です。胸郭が硬くなり、肩甲骨や肩関節の動きに影響を与え、肩関節の可動域が制限されています。特に胸椎の柔軟性が低下しているため、肩甲骨が正しく動かず、肩関節に過剰な負担がかかっていることがわかります。
- 肩甲骨の安定性の確認
肩甲骨の動きが不安定で、肩関節の動きに影響を与えています。肩甲骨が安定せず、肩甲骨がうまく動かないことで、回旋腱板や関節包に余分な負担がかかり、炎症や繊維化が進行しています。肩甲骨の安定性が不足しているため、肩の動作時に痛みと可動域の制限が生じています。
状態の説明
右肩への痛み、可動域の低下、筋緊張は、全身の関節と筋肉の機能的連携が崩れた結果として現れています。この問題は、各関節がそれぞれの役割を持ち、安定性や可動性のバランスが重要であると考えられます。
- 腹圧の低下による体幹の不安定性
腹圧は、体幹の安定を保つために非常に重要です。患者様の場合、腹圧が低下しており、これにより体幹が不安定になっています。この不安定さが肩関節にまで影響を与え、肩周囲の筋肉、特に回旋腱板が過剰に働くようになり、肩に過剰な負荷がかかっています。この状態が長く続くことで、筋肉の緊張が高まり、肩の痛みや可動域の制限を引き起こしています。
- 胸郭の可動域低下による肩甲骨と肩関節への影響
肩関節の動作には、胸郭の柔軟性が大きく影響します。胸郭の可動域が低下することで、肩甲骨や肩関節の動きが制限され、スムーズな動作が困難になります。特に胸椎(胸部の背骨)が硬くなっていると、肩甲骨の動きが制限され、肩に余分な負荷がかかります。この影響で、肩の炎症や痛み、さらには繊維化が進行し、痛みと可動域の低下が発生しています。
- 肩甲骨の不安定性による肩関節への過負荷
肩甲骨は、肩関節の動きを支える重要な構造であり、肩の動作において安定性が求められます。肩甲骨が不安定であると、肩の動きを支えられず、肩周囲の筋肉や腱に過度な負担がかかります。これにより、回旋腱板や関節包に過剰な負担がかかり、炎症や痛みを引き起こし、結果的に可動域の制限を伴う肩の問題が発生します。
施術内容
エクササイズ
- Roll Down
腹圧の低下による体幹の不安定性を改善するために、体幹の筋力を強化するトレーニングを行い、肩関節にかかる負担を軽減します。
- One Arm Push-Standing
胸郭の可動域を広げるためのストレッチを行い、肩甲骨と肩関節がスムーズに動けるようにし、肩への負荷を軽減します。
- Pike up
肩甲骨の安定性を向上させるエクササイズを行い、肩関節の動作をサポートします。これにより、肩の可動域の改善が期待でき、筋緊張も緩和されます。
手技療法
- 手技
僧帽筋、広背筋、三角筋、胸部、上腕三頭筋に対して揉捏法を用います。この手技により、筋肉の緊張を緩和し、血液循環を促進させ、肩の柔軟性を高めます。特に圧痛点が確認された部位には重点的に施術を行い、痛みの原因である筋緊張を解消します。
- トリガーポイント療法
筋緊張の原因となるトリガーポイント(筋肉の緊張が集中している部分)に対して、直接的な圧迫を加えることで、緊張を緩和させます。僧帽筋、広背筋、三角筋、胸部、上腕三頭筋の筋肉に対して行い、筋肉全体の緩和を促します。
- モビライゼーション(関節可動域改善)
肩関節周囲の筋緊張によって制限された可動域を改善するために、関節のモビライゼーションを行います。特に、肩鎖関節や胸鎖関節に対して軽度の関節運動を加えることで、関節の柔軟性を高め、筋肉の緊張を緩和します。
- 4. Ib抑制(抑制技術)
筋肉の過剰な緊張を和らげるために、Ib抑制という手技を使用します。これにより、神経系を介して筋肉の収縮を抑制し、筋緊張を効率的に解消します。この技術は、肩関節周囲の筋肉が過度に緊張している場合に特に効果的です。
温熱療法
- 温熱療法
ホットパックを使用して、筋肉の血流を改善し、緊張を和らげます。
- 電気療法
干渉波治療器や超音波治療器を使用して、筋肉の緊張を和らげたり、血流を改善したりします。また超音波機器を使用し炎症の軽減を促します。
今後の治療方針
- 通院頻度
初期の痛みが強い時期には週3回の通院を推奨。痛みが軽減してきたら、週2回、最終的には週1回に通院頻度を減らしていきます。
- 施術メニュー
エクササイズ、手技療法、物理療法を組み合わせ、症状に合わせて調整します。施術の進行状況に応じて、エクササイズの強度を段階的に上げていきます。
- 自宅でのケア
ストレッチやキャットエクササイズを行い、回復を促進し、再発を防ぎます。
おおさと接骨院では、五十肩の機能的な原因に対してお一人お一人に合わせた施術を提供し、患者様の症状の改善を目指します。
痛みや不調でお困りの方は、ぜひ当院にご相談ください。
参考文献
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