腱鞘炎(ド・ケルバン病)
腱鞘炎(けんしょうえん)とは、腱を包む鞘(さや)の部分が炎症を起こす病気です。腱は、筋肉から骨に力を伝える役割を担っており、その周りには腱鞘と呼ばれる滑膜があり、腱の動きをスムーズにします。腱鞘が炎症を起こすと、腱の滑りが悪くなり、痛みや腫れ、動かしづらさが生じることがあります。
ド・ケルバン病は腱鞘炎の一種で、主に手首の親指側に発生します。親指を動かす筋肉である短母指伸筋と長母指外転筋が、腱鞘で炎症を起こし、痛みや動きの制限をもたらします。これらの腱は親指を反らしたり、広げたりする動きに関与し、炎症が起こるとこれらの動作が困難になります。炎症の結果、腱鞘が腫れて腱を圧迫し、痛みを引き起こします。
構造的観点からの腱鞘炎の原因
- 過度な使用:手首や指を反復的に使用する動作が原因となり、腱や腱鞘に負担がかかり、炎症を引き起こします。特に、作業が長時間にわたる場合や、力を込めて行う場合にリスクが高まります。
- 関節可動の悪さ:手や手首を不自然な角度で使用することが多いと、腱鞘に無理な負担がかかり、炎症が進行します。特に長時間にわたって同じ姿勢で作業を行うと、腱鞘にかかる圧力が蓄積します。
機能的観点からの腱鞘炎の原因
- 筋力の低下:手や前腕の筋力が弱い場合、腱や腱鞘にかかる負担が大きくなり、炎症のリスクが高まります。筋力が不足していると、腱が過度に引っ張られ、腱鞘が傷つきやすくなります。
- 柔軟性の欠如:腱や筋肉の柔軟性が低下すると、動作時に無理な力がかかり、腱鞘炎の原因になります。柔軟性がないと、手や手首の動きがスムーズにいかず、腱に過剰な負荷がかかります。
どんな時に痛みが出るのか?
- 手首を反らす動作:手首を反らすと、親指や手首の腱が腱鞘を通過し、その部分に負担がかかります。この動作は特にド・ケルバン病に関連して痛みを引き起こします。
- 親指を動かす動作:親指を動かす際、腱が腱鞘を通過し、炎症を起こしている部分で摩擦が増すため、痛みを感じます。物を掴む、持ち上げる、親指を広げるなどの動作が含まれます。
- 手首をねじる動作:手首をねじる動作は、腱に追加のストレスをかけ、腱鞘に炎症がある場合に痛みを引き起こします。特に反復的な手の使い方や力を入れる動作が問題です。
- 長時間同じ姿勢:長時間同じ姿勢で手や手首を使い続けると、腱鞘にかかる負担が増し、痛みが悪化します。例えば、長時間のキーボード作業などが該当します。
症例:20代女性 育児でのド・ケルバン病(狭窄性腱鞘炎)
問診
6ヶ月前に第一子を出産後、育児に取り組んでいます。 一週間ほど前から赤ちゃんのオムツ替えや授乳、抱っこなど、手首を使う動作が頻繁に求められる生活を送っている中、特に、赤ちゃんを抱き上げたり、授乳の際に赤ちゃんを支え動作で痛みが強まっています。抱っこができないほどの痛みが継続することもあり、育児への悩みが大きく、最近では赤ちゃんが泣いても抱っこが辛く、育児への影響が出ているため、今回の来院に至りました。
身体評価
- 視診:患者の右手首に軽度の腫脹が見られ、親指基部周囲に赤みはないものの、動作時に患者は痛みを示す表情を見せる。親指の動作に際して制限があり、特に外転動作で痛みを訴える。
- 触診:親指基部から手首にかけての長母指外転筋および短母指伸筋に圧痛を確認。特に橈骨茎状突起周辺に明確な圧痛があり、患者は触診時に強い痛みを訴える。腫れも僅かに感じられるが、熱感はない。
- 可動域テスト:手首の屈曲、伸展動作時に痛みがあり、特に橈屈(親指側への動作)で痛みが強まる。
- 筋力テスト:長母指外転筋および短母指伸筋の筋力は、痛みによって通常の力を発揮できず、左右の筋力差が顕著に現れている。
- 特殊テスト(Finkelsteinテスト):親指を手の中に握らせ、手首を尺屈させた際、患者は即座に強い痛みを訴えた。
状態の説明
この症状は、特に育児において手首や親指に負担がかかる動作を繰り返すことでよく見られます。まずは手首への負担を軽減することを優先し、並行して、手技療法や超音波療法を用いて痛みを緩和していきます。さらに、ストレッチやエクササイズを取り入れ、関節の可動域を広げて、赤ちゃんを無理なく抱っこできる状態を目指して施術を進めていきましょう。
施術内容
痛みの強い時期
- 手首の固定
テーピングを行い、手首に過度なストレスを減らします。これにより腱鞘への圧力を軽減し、炎症が悪化するのを防ぎます。
- 手技療法
- 手技:短母指伸筋、長母指外転筋、長母指伸筋に対して軽いマッサージを行い、筋肉の緊張を和らげます。炎症が強い部分には慎重にアプローチし、圧力をかけすぎないよう注意します。特に腱鞘周囲の筋肉のリリースを行い、腱鞘への負担を軽減します。
- 関節可動域訓練:炎症による可動域の制限を少しずつ改善するため、軽度のモビライゼーションを行います。無理をしない範囲で手首や親指の可動域を調整し、腱鞘に過度な負担をかけないようにします。
- エクササイズ
- ストレッチ:初期段階では、可動域を広げるためのエクササイズを行います。痛みと可動域は関連しているため、可動域が広がると痛みも自然に軽減していきます。
- 物理療法
- 温熱療法:ホットパックを使用して腱鞘周囲の筋肉を緩め、血流を促進します。温熱療法によって炎症が鎮まり、痛みが和らぐ効果を期待します。
- 電気療法:低周波治療や超音波治療を併用し、炎症の軽減と痛みの緩和を図ります。特に超音波治療は、深部の炎症に効果があり、腱や腱鞘の回復を促進します。超音波治療は腱鞘炎の治癒を早めるとされています。
痛みが徐々に緩和してくる時期
- 手技療法
- 手技:筋肉の柔軟性を回復させるため、腱鞘周囲の筋肉に対してより強度のマッサージを行います。緊張をほぐし、腱鞘への圧力を軽減して、日常動作をスムーズに行えるようにサポートします。
- 関節可動域訓練:痛みが軽減してきた段階では、手首や親指の可動域を広げるモビライゼーションを強化します。可動域の正常化を目指し、腱の動きをスムーズにして、再発防止に努めます。
- エクササイズ
- ストレッチ:可動域が広がってきた段階で、次に軽い重りを使って強度に慣らしていくエクササイズを行います。
- 筋力トレーニング:軽い抵抗運動を行い、腱や筋肉のバランスを整え、手首や親指の安定性を向上させます。これにより、腱鞘炎の再発を防ぎます。
- 物理療法
- 温熱療法:温熱療法を継続して行い、手首や親指周囲の血流を促進し、筋肉の柔軟性を維持します。
- 電気療法:低周波治療を続けて筋肉の緊張を緩和し、炎症が再発しないよう管理します。超音波治療を併用することで腱鞘の深部の炎症を抑え、治癒を早める効果を狙います。
今後の治療方針
- 通院頻度
痛みが強い場合は週2〜3回の通院を推奨し、痛みが軽減してきたら通院頻度を減らします。
- 自宅でのケア
ストレッチやリリースを行い、腱鞘炎の再発を防ぐために、日常生活でケアを継続して行います。
おおさと接骨院では、腱鞘炎の症状や原因に対してお一人お一人に合わせた施術を提供し、患者様の症状の改善を目指します。
痛みや不調でお困りの方は、ぜひ当院にご相談ください。
参考文献
1.Gordon J., Matthews C., "De Quervain's Tenosynovitis: Clinical Insights and Management", 2013
2.Kumar A., Johnson L., "Understanding and Managing Tendon Pain", 2015
3.Miller R., Bernstein J., "Pathophysiology of Repetitive Strain Injuries", 2012
4.Smith M., Brown P., "Chronic Tendon Disorders: Diagnosis and Treatment", 2016
5.McLean R.M., "Ultrasound Therapy for Tendon Disorders", 2011
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